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周術期リスク推定のための心臓核医学

要点
  • 周術期の心事故のリスクは臨床的なリスクファクタや手術手技の心血管系への侵襲度などの影響を受ける。
  • 術前の心筋血流SPECTは、運動耐容能が4METs未満で、高リスク、中リスク手術を受ける予定があり、所定の臨床リスクファクタを有する症例において有用であるとされる。
 

非心臓手術の術前リスク評価とACC/AHAガイドライン

  • 非心臓手術を施行する際に、周術期に発生する心事故のリスクを術前に予測して予防的な対策をとることは麻酔科医や外科医にとって重要な事項であるが、術前のリスク評価は必ずしも容易ではない。
  • その最大の原因として考えられるものに、周術期の心事故の危険性を増大させる臨床的なリスクファクタにさまざまなものがあり、さらに手術の心血管系への侵襲度が手技ごとに異なるため、これらの組み合わせにより規定される症例ごとのリスクの見積りがきわめて複雑になる点がある。
  • この問題を解決するために提案された方策でよく知られるものがACC/AHAガイドラインであり[1]、術前検査の進め方、術前の治療指針、手術施行の可否、術後管理の指針が示されている。
  • 2007年版のガイドラインで示された手術可否の判断法の概要を示す。

  • 緊急手術でない場合には、表1に示す状況下で外科手術よりも心臓の治療を優先すべきであるとしている。術前の心筋血流SPECTは、運動耐容能が4METs未満で、高リスク、中リスク手術を受ける予定があり(表2)、臨床リスクファクタ(表3)を有する症例においてあるとされている。
表1 Active Cardiac Conditions* (文献1より引用)
不安性狭心症もしくは重度胸痛(CCS class III もしくは IV)、発症1ヶ月以内の心筋梗塞、非代償性心不全、重症不整脈、重症弁膜症
表2 手術の危険度**
(2002年度版ACC/AHAガイドラインより)
高リスク手術 (心事故率5%以上)
  • 緊急手術(特に高齢者において)
  • 大動脈ならびにその他の大血管手術
  • 末梢血管手術
  • 大量の体液の移動かつ/または大量の出血をともなう待機的手術
中リスク手術 (心事故率5%未満)
  • 頸動脈内膜剥離術
  • 頭頚部手術
  • 腹腔ならびに胸腔内手術
  • 整形外科手術
  • 前立腺手術
低リスク手術 (心事故率1%未満)
  • 内視鏡手術
  • 表在臓器の手術
  • 白内障手術
  • 乳腺手術
表3 臨床リスクファクタ***(文献1より引用)
虚血性心疾患の既往、代償された心不全・心不全の既往、脳血管障害の既往、糖尿病、腎不全
 

核医学検査の有用性

  • 高リスク手術に分類される血管手術を中心にリスクの層化において負荷心筋血流SPECTが有用であるとする報告がこれまでに多数なされてきたが、日本人を対象とした中リスク、低リスク手術をも含めたさまざまな外科手術の術前での使用についての報告は限られている。
  • 自験例においては、負荷心筋血流SPECTは高リスク、中リスク手術(特に臨床リスクファクタが複数ある症例)のリスクの層化に有用であった[2-4]。
  • 心電図同期SPECTから得られる機能情報を付加すると、さらに詳細なリスク層別化が可能であった[2-4](図2)。

 

参考論文

  1. Fleisher LA, et al. ACC/AHA 2007 Guidelines on Perioperative Cardiovascular Evaluation and Care for Noncardiac Surgery: Executive Summary: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines (Writing Committee to Revise the 2002 Guidelines on Perioperative Cardiovascular Evaluation for Noncardiac Surgery) Developed in Collaboration With the American Society of Echocardiography, American Society of Nuclear Cardiology, Heart Rhythm Society, Society of Cardiovascular Anesthesiologists, Society for Cardiovascular Angiography and Interventions, Society for Vascular Medicine and Biology, and Society for Vascular Surgery. J Am Coll Cardiol 2007;50:1707-32.
  2. Hashimoto J, et al. Preoperative risk stratification using stress myocardial perfusion scintigraphy with electrocardiographic gating. J Nucl Med 2003;44:385-90.
  3. Hashimoto J, et al. Preoperative risk stratification with myocardial perfusion imaging in intermediate and low-risk non-cardiac surgery. Circ J 2007;71:1395-400.
  4. Kasamatsu T, et al. Application of support vector machine classifiers to preoperative risk stratification with myocardial perfusion scintigraphy. Circ J 2008;72:1829-35.

[JH: 2010.08.01]